翌朝も胸の悪さは治まらず、そうじ中、わずかに胃の中に残っていたものを廊下に戻してしまった。僕は誰かに抱えられて、部屋の布団に寝かされた。
そうじが終ると朝食だが、僕はそのまま部屋で横になり、目をつぶっていた。もちろん眠りが訪れるわけもない。
コンコン!とノックをする音がして、寮監さんが入ってくる。
僕の朝食を届けてくれた。
寮監さんが僕の顔をのぞき込む。
「大丈夫か?」
「・・・・・。」
僕は大丈夫ですと答えられなかった。
つらいです、もうダメです、そう口に出そうになった。
「この後、できるか?」
「・・・・。」
僕はこれにも答えられない。
しばらく休んでろって言ってもらえればどんなにいいか、そんな思いも頭をよぎった。
しかし、もちろんそんな甘い言葉など出てくるはずもない。
寮監さんは口調を強めた。
「じゃあ、リタイアするか?」
え? リタイア?
その言葉を聞いた瞬間、不意に込み上げるものがあり、ぶわっと涙があふれた。
同時に、父さん、母さん、じいちゃん、ばあちゃん、そしてあんなに喜んでくれた檀家さんたちの顔が浮かぶ。
「できません!! 僕がお坊さんになるのを待っててくれる人たちいるのに。。。」
僕はあふれ出る涙をぬぐいながら、必死に声を絞り出した。
みんなに悲しい顔はさせたくない。僕が修行をやり遂げることを信じているのに。
幻滅させたくない。 リタイアなんてできない。。。
寮監さんは静かに「そうか、じゃあ頑張れ。」と言って、部屋を出て行った。
100日加行が始まって約1ヶ月。
これだけ苦しい思いをしてるのにまだ30日。
あと70日も残っている。
押し潰されそうな不安と、気分の悪さを胸の奥に押し込み、僕は体を起こした。
再びみんなと一緒に行法に向かう。
毎日毎日、僕はぎりぎり踏みとどまっている。
(つづく)
山地 弘純
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