逃げようとしたら逃げられたはずだ。そうしなかったのは、僕の中にある何かが引き止めていたのかもしれない。 僕は無事に4年で大学を卒業。「専修学院」を間近に控えてドキドキしていた。 そこで1年間修行して、僧侶の資格を得る…
高野山大学の密教学科。それは普通の大学生と変わりない脱力した毎日。 もちろん宗教の授業が多く専門的な知識は増やしたが、修行というような実践はない。 4年間、お坊さんになるのが当たり前というような仲間たちに囲まれて過ご…
お坊さんはかっこ悪い。それが敬遠し始めた一番の理由だった。 野球選手になりたい。消防士になりたい。美容師になりたい。 中学の授業中、目を輝かせながら夢を語る同級生たち。先生は僕に言った。「あ、お前はウチを継がなあか…
お寺を継ぐことに何の抵抗も覚えなかった小学生時代。身体は弱かったが、それなりに成長していった。 僕の胸にはいつも首から掛けられたお守りが在った。恥ずかしいと思おうが、運動の邪魔になろうが外すことはできない。 高野山の…
僕は兵庫県北部の秘境の地に在るお寺の息子として生まれた。 両親が結婚して以来、5年間待ちに待ち続けた待望の後継ぎだったようだ。 なかなか子供ができなかった両親は小豆島八十八ヶ所霊場にお参りし、一心にお願いした。 そのおか…
半年後の十一月二十一日には御本尊様のお厨子の扉を閉じる閉帳式を行う。 開いたばかりだというのに閉じることを考えるとなんだか寂しくなってしまう。だけどたとえ扉が閉じても、御本尊様は中でずっと変わらず僕らに微笑んでいて下さ…
参拝者の誰もが、二度と出逢うことができないかもしれないこの大法要を胸に焼きつけようと、全身全霊を傾けている。 荘厳された本堂内は高揚感で満ち溢れていた。 束の間の静寂を打ち破り、高らかに発せられたお経の声が一面に響き…
僕はイベント屋さんに積めるだけテントを積んでくるべく準備だけはしておいてくれと告げた。それ以外は、僕も考えるのをやめた。 両親の強い「信じる」という言葉に、共感したからかもしれない。晴れると信じよう。毎朝のおつとめの…
前日の午前中に降りつけた激しい雨。突如頭上からたたきつけられた、まさかまさかのアラレ。 それは御本尊様が現れることに対する自然の感応か。嬉しさで零れ落ちたかのような空からの涙が、御開帳の序章だったのかもしれな…
日本海新聞のコラムを読み返したいというご要望を多くの方からいただきました。連載が終了して一年半が経ちました今でも覚えていて下さることは、本当に嬉しく、ありがたいことです。 今頃ですが、ブログにて掲載しなおすことにしまし…