眠れない状態は続いた。 体全体に力が入って、神経は高ぶり続けた。 ある晩、今まで緊張させ続けた肉体がピークを迎えた。 布団の中、仰向けで天井を見上げる。 相変わらず眠れないから、歯をギュッと噛み締める。 その瞬間、全身に…
目を半分つぶり、足を半迦座に組み、行法に入る。 禅宗の座禅のようなものだ。 内容は違うだろうが、組む形は似ている。 行法は長時間に渡るため、体の固い人にとってはかなりの苦痛だ。 僕は股関節が固いから、腰や足がものすご…
起床、朝の行法(約3時間)、朝勤行(おつとめ)、下座行(そうじ)、朝食、休憩、伽藍参拝、昼の行法(約3時間)、昼食、、休憩、夕の行法(約3時間)、夕勤行(おつとめ)、夕食、休憩、施餓鬼、就寝。 毎日同じことの繰り返し。だ…
ある日、こんちゃん先輩が突然事務所から放送で呼び出され、ソファに座らされた。 そして幹事さんと寮監さんに囲まれる中、悲しい事実を告げられた。 「実は、君のお父さんが亡くなったと連絡があった」と。 きっと、脳天をかち割られ…
翌朝も胸の悪さは治まらず、そうじ中、わずかに胃の中に残っていたものを廊下に戻してしまった。僕は誰かに抱えられて、部屋の布団に寝かされた。 そうじが終ると朝食だが、僕はそのまま部屋で横になり、目をつぶっていた。もちろん眠り…
夜が来るのが怖かった。 また深い闇に飲み込まれ、自分の心臓の音と闘わなければならない時間がくるのか。。。 苦しい。つらい。 今日はどうしても眠りたい。 ハルシオンを飲んだ。 またやってくる、グルグルと目が回る感覚。 眠…
加行中は、頭髪をT字のカミソリで剃りあげる。断固たる決意ができたのか問われているようだ。 部屋替えでルームメイトも変わってしまった。せっかく打ち解けたのに。。。 この100日間は御詠歌もお茶もお花もない。ただ毎日ひたす…
高野山の壇上伽藍の裏通りにひっそりとたたずむ宝寿院。 80名収容の寮を完備している。 この宝寿院が真言宗の道場『専修学院』である。 4月初、髪を2ミリに刈り込んだ僕は、不安と緊張からくる重い足取りでその門をくぐった。 …
逃げようとしたら逃げれたはずだ。 そうしなかったのは、僕の中にある何かが引き止めていたのかもしれない。 僕は無事に4年で大学を卒業。「専修学院」を間近に控えてドキドキしていた。 そこで1年間修行して、僧侶の資格を…
高野山大学の密教学科。 それは普通の大学生と変わりない脱力した毎日。 もちろん宗教の授業が多く専門的な知識は増やしたが、修行というような実践はない。 4年間、お坊さんになるのが当たり前というような仲間たちに囲まれて過ご…