毎年怖くて花火大会に参加できなかった長女が、今年は一緒に楽しみたいと、イアーマフを携えて参戦。
17時前に会場に到着。
屋台での食べ歩きや金魚すくいを楽しむ。
18時前 神輿の到着で太鼓のドンドンと腹に響く音に少しづつ不安がつのる。
早くもイアーマフを装着。
19時前 浜辺の特等席にシートを敷いて陣取る。女四人を置いて僕は生ビールを買いにいく。
19時半 花火の試し打ちで早くも恐怖満載で帰ろうコール。
「まだ本番にもなってないのに、もうちょい待ってよ~」
といってビールをのんびり飲んでいる僕に向かって、
「お父ちゃんは優しくない。私のいうことを聞いてくれない」と泣きながら激怒。
この身体の奥底に響く振動が、とても怖かったんだろうな。
でも今ビールを飲み始めたばかりなのに。
そんな二つの気持ちが交錯したけれど、長女の増してくる狂乱に負けて、僕と二人で車に戻ることに。
「父ちゃんはツマミが欲しいからポテト買うよ」
と一刻も早く去りたい長女の気もちを多少放置しながら、露天で時間を浪費。
それでも「どこが不安なの?」と聞いて、その身体の箇所を「大丈夫だよ〜」ってトントンとタッピングしてたら少しは落ち着いたみたい。
ただ、遅くなった分だけ車に帰り切るちょっと前に花火本番が始まってしまう。
20時過ぎ、怖い怖いと言いながら、なんとか車に駆け込んだ。
車の中でもしばらく不安なままに、ただただ前を向いて音の恐怖を消化しようとしてたみたい。
だけど、「見てごらん、すっごく綺麗だよ」と僕が言った時、ふと目を上げて、窓の外の花火に目をやった。
「きれ~い。」
正直そんな答えが返ってくるなんて思わなかったんだけど、長女がそう答えて花火をしっかりと見つめる姿を確認して、僕はとても安心したな。
しばらく二人でただただ鑑賞してた。
そのうちお母ちゃんに電話するといいだした。
「私がちゃんと見れてるってお母ちゃんに伝えたい」
長女は自分の振り絞った勇気を、なによりもお母ちゃんに伝えたかったんだろうな。
でも僕はかけてあげなかったんだけどね。
お母ちゃんたちが楽しんでるのを、今は邪魔したくないからって。
長女は不満そうだった。
今すぐ伝えたいのにと。
「ねー、ちょっと外に出てみない?」
僕はそんな提案をする。
でもやっぱりそれは強く嫌がった。
「外だと怖い」と。
僕は一人だけ車の外に出てみた。
中では長女が取り残された不安の声をあげていた。
もうそろそろ僕もこれ以上求めるのはあきらめようかなと思った。
そんな時、長女は「やっぱり車の外に出てみる」と、ドアを開いて出てきたんだよね。
そして車の外で、二人で並んで花火を見た。
ちょうど音の小さめな花火で、長女もなんとかいけたみたい。
寄り添うこと。
寄り添わないこと。
僕はいつも少しだけ負荷をかけるようにしている。
それが達成できたと思い、僕はとても満足した。
その時長女がびっくりするようなことを言い出した。
「お母ちゃんと真由ちゃんと亜依ちゃんのところに戻る」と。
花火は再びズドンズパンと音の大きなものが響き始めていた。
音の中心に近づいて、また半狂乱にならないだろうかと僕はちょっと躊躇したけど、長女の言葉にすごく湧き上がるものがある。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ行こう」
「うん」
再び浜辺の特等席に向かう。
途中街灯の下で花火を背景に写真を撮ってあげたら、ピースしながら笑顔見せたよ。
ちょっと固かったように思えたけど、半狂乱になったさっきまでの姿があるからこそ、そんな表情をしてみせれるってことは大丈夫だなと安心した。
10分ほど急ぎ足で歩いて、三人のいる元の場所に戻った。
ちょうど花火と花火の間の少し休憩の時だった。
「あれ?のぞみどうしたん?」と目を丸くしたお母ちゃん。
そのあともらった「すごいね」って言葉が、長女にとってはなによりのご褒美だったんだろうね。
再び五人揃って、花火のクライマックスを見れた。
花火はますます迫力があって美しかった。
長女がどのような心拍で見ていたのかはわからない。
僕は花火に集中したくて、彼女の顔を見なかったから。
それでも見終わった最後に、「やった」という満足げな顔を見せてくれたよ。
帰り道、誇らしげに気持ちの変遷を語る長女はまた一つ乗り越えたという自信をまとっているように見えた。
彼女はいつも、僕らからすると些細なことに大きな勇気を必要としている。
その姿はとてももどかしく、でもそれでいてとても愛おしいんだ。
山地 弘純
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