高野山の冬は厳しい。
標高800メートルを越える山上。
雪は少ないが、気温は恐ろしいほど冷え込む。
12月に入ると、毎日のように氷点下を記録した。
トコちゃんと一緒に部屋を出て身震いして歩きながら、
「今日は何℃くらいやろ?」
「今日は少し寒さがマシやから、多分0℃くらいじゃない?
「今日はめちゃめちゃ寒いから、おそらくマイナス6℃くらいいってるんちゃう?」
とか、毎朝予想しあった。
日直が黒板に温度を書き込んでいる。
それを見たとき、おおかた予想通りの結果ながらうんざりしたものだ。
ちなみに日直は2人づつで、みんなより早く起きる。
5時起床のときには4時。4時起床のときには3時。
起きて寮の電気を付けて、門を開く。
井土の水を汲み、仏様に精進供というお膳をお供えする。
黒板に連絡事項や温度を記入し、起床時間に半鐘を鳴らしてみんなを起こす。
勤行、食事作法、施餓鬼の経頭。
夕方のわずかの休憩時間に精進供を下げる。日誌記入。
そして夜、消灯時間に半鐘をたたいて電気を消した後、1階から3階まで見回りをする。
「お~い、電気消せよ~!」
懐中電灯を寮監さんに返して、自分たちの部屋に戻る。
は~、ぐったり。。。
日直が当ると、いつものスケジュールの中へ余計に仕事が入ってくる。
正直言って、順番が回ってくる前は憂鬱だった。
あ~それにしても毎日ほんとに寒いな~。
それがみんなの合言葉で、口の周りをおおった手に温かい息を吹きかける仕草を誰もがしていた。
だけど、この寒さを楽しめる時もある。
僕は、下座行(そうじ)の時間、本堂の周りの廊下を水拭きするのが好きだった。
軽くしぼった水を多く含んだ雑巾で、黙々と外周を拭き続ける。
すると拭いた跡は、外気の冷たさで瞬く間に凍り付いていった。
即席スケートリンクの出来上がりだ。
ここを通るものはいないから、何人かで廊下の床の上を思う存分つるっつるに仕上げて、滑って楽しんだ。
もちろん中の廊下は水拭き禁止。
だってこけちゃ困るもん・・・
掃除が終ると、一目散に食堂へ向かう。
それは唯一ストーブのある場所だから。
それと、部屋にいる時にはこたつにあたれる。
だが、行法は暖房器具も何もない道場で行われる。
一日のほとんどの時間はここで過ごす。
やはり、ものすごく寒かった。
手が凍りつきそうだった。
透き通った空気の中に吐き出す真っ白い息が、膨らんでは消え膨らんでは消える。
僕達は見えないものを感じようと修行するのだが、これも見えないものが姿を現した一つの形なのだとしみじみ感じる。
普段は見えない息が、寒さの中ではこんなにも真っ白く姿を現すんだな~と。
優しさもそうだ。こんな自分だからこそ、普段は見えない他人の優しさが身に染みる。
そういえば、僕も人並み以上に寒さを感じている。
少し神経も落ち着いてきたのかな~とも思う。
なんだかんだでここまできた。
行法もついに最終段階を迎える。
理趣経 → 十八道 → 金剛界 → 胎蔵界 → 護摩
胎蔵界を終え、やっと護摩加行にたどり着いた。
今までのことを考えると、ほんとに信じられない。
加行終了まで、あと二週間。
先を見るなと自分に言い聞かせても、もう無理だ。
(つづく)
山地 弘純
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