11月4日
児童養護施設でボランティア実習をさせていただいた。
たった8時間の実習をお願いするというのは、とても迷惑なことだったろう。
しかし快く受け入れて下さったスタッフの皆様には感謝している。
心の相談員講習卒業のために義務付けられた施設実習。
2カ所以上の施設に自ら繋がりをつけること、それも勉強の一つだということだ。
本当は介護系を選べば近くにたくさんあるのだけれど、僕はやっぱり子供が好きなので、どうしても子供の現場が見てみたかった。
いろいろ調べているうちに見つけたのが、児童養護施設だった。
実習といっても、いったい何をしていいのか見当もつかない。
施設にどんな仕事が存在するのかさえ、全くわからないままのお願いである。
そんな中、施設長さんが何もできない僕に対して知恵を振り絞って割り当てて下さった役割。
「入所児童への生活ケア」。
それらしき実習名をいただいた。
子供達がみんないる日がいいから祝日に来てくださいと言われ、選んだ文化の日の振替日。平日は学校があるためだった。
とはいえ、学校があろうとなかろうと変わりないかの如く、小学生未満の小さな子供達とほとんどの時間を過ごした。
本当にたいしたことはしていない。
子供たちと一緒にじゃれあったり、散歩に出かけたり、一緒にDVDを見たり、絵本の読み聞かせをしたり。
僕が呑気に子供達に触れさせていただいている裏で、掃除をしたり、洗濯をしたり、アイロン掛けをしたり、服を畳んだりしているスタッフの姿が視線に入ってくる。
そうだよな、ここは全ての生活をフォローしているんだもの・・・。
2才から18才の子供達。
養護施設は保護者のない子供、親からの虐待を受けている子供、親の病気や経済的理由で家庭生活を続けることが困難になった子供が入所する施設だということだ。
この子はどんな理由で。その子は?あの子は?
もちろんそんなことを聞けるはずもない。
みんな人懐っこい子ばかりだ。
全然口を聞いてくれなかったらどうしようという不安は全く意味のないもので、すぐに僕を仲間に入れてくれた。たくさんの無邪気な笑顔を見せてくれた。
僕が恥ずかしく思ったことは、この施設に来てみるまでの勝手な子供達のイメージだった。
僕は暗くネガティブな部分ばかりもった子供像を作り上げてしまっていたのだった。
しかし、みんなが一つの家族として、明るく乗り越えて行こうとしている一面が見れたのは、とても嬉しいことだった。
僕にとって特に心に残ったのは、2才の女の子との触れ合いだった。彼女はまだこの施設に来て5日ほどしか経っていないということだ。
2才か。うちの下の子を同じくらいだな。
こんな小さいのに両親と離れて暮らさなければならないなんて。
僕は彼女のトイレの世話をしたり、手を洗ってあげたり、本を読んであげたり。
僕の印象としては、うちの子と比べて、格段に手のかからない子だな~と思っていた程度だった。
自分のできることをこなそうという思いばかり先行していて、子供たちの表情の細部まで見る余裕がまだなかったのかもしれない。
研修も6時間ほどを経過したころだった。
僕は一人でうろうろと施設内を歩き回る彼女を見失い、探していた。
見つけた。あ~また階段を登ろうとしている。
その時降りて来た若い男性スタッフの方が優しく彼女に話しかけ、方向転換させてくださった。
彼女はまた一人で部屋の方に戻っていく。
遠ざかって行く彼女を見つめながら、そのスタッフの男性は僕に話しかけた。
「あの子の笑った顔、見たことあります?あの子はまだこの施設に入所して日が浅いんですけど、僕はまだ笑った顔を見たことがないんです。」
そういえばいつも穏やかかもしれないけど、笑ったっていう顔は見たことがないかも。
その時初めて僕は表情を意識した。
もう施設の暮らしに違和感なく溶け込んでいるように思える彼女が、まさかスタッフでも見たことがない人がいるくらい無表情だなんて。
僕は部屋に戻ってもう一度彼女に向き合った。
「いないいないばあ。」
しかし彼女は無表情。
「たかいたか~い!」
あうあうと声を出して喜んではいるようだが、やっぱり笑わない。
そうだったのか。
まだ心を閉ざしていたんだなって、初めて気が付いた。
それに気が付いた瞬間、彼女のことがとても愛おしくてなって、思わずぎゅっと抱きしめていた・・・。
笑ってくれなくても、僕に懐いてはくれたようだった。
いろんなスタッフの方から「すごいなつきましたね~」と言われ、なにか行動を起こした後にす~っと僕のひざの上戻ってきて腰掛ける彼女の姿を見ては、スタッフみんなが顔を見合わせて笑っていた。
周りの子供たちのハッスルタイムが始まった。組つ離れつ、走ったり転がったり、笑ったりけんかしたり。
わ~わ~ぎゃ~ぎゃ~。
その流れに乗って僕と彼女もかけっこをする。
ぼてぼてとよく肥えた彼女の走り方がまたかわいい。
僕は走った先で振り返って膝立ちになり、両手を広げる。
よ~しおいで!
むぎゅ~っと彼女を抱きしめる。
そしてまた走る。
彼女は僕を追いかけ続ける。
むぎゅ~。
そのうちに他の子もこっちの遊びにまぎれこんで来た。
彼女と走ったり抱きしめたり。
あ~、幼稚園の男の子が彼女をおんぶしようと背中に乗せようとしている。あぶな~い。
ドサッ。
見事な背負い投げが決まった。
僕は急いで駆け寄った。泣くかな?泣くかな。
あ!
一瞬固まっていた彼女は、その後僕の顔を見て、 にっこ~っと笑ったんだ。
それはとてもとても素敵な笑顔だった。
すごいって思った。
この瞬間は僕にとって、とっても得難いもの。
彼女の笑顔は僕の脳裏に今一番焼きついて離れないもの。
助けるかのように高1の女の子がやってきて、彼女に「おいで~」と手を広げ抱きよせ持ちあげる。
僕が「お姉ちゃん、なれたもんやね~」と感心すると、高校生らしい歯に噛んだ笑顔で「うん」と言った。
彼女はもうみんなから受け入れられている。
みんなと一緒なんだよっていう空気感に包まれる。そんな姿を見ながら僕は思う。
そっか~。もう家族なんだな~。
かわいそうだ。
不憫だ。
そんな決めつけは彼女に失礼だな。
新しい家族とともに、たくさんたくさん笑って欲しいって思う。
夕方5時、僕のボランティア実習は終了した。施設長さんと担当の先生から証明の印をもらい、後ろ髪を引かれながら玄関に向う。
2才の女の子にバイバイって言いに行こうかと思ったけど、やっぱりそれはダメだって思い、静かに去ることにした。
さっきの高1の女の子が、玄関前で体育座りして友達と携帯型のゲーム機で遊んでいる。
僕は「さよなら」と言ったが、彼女は無視。
なんだよ、感じ悪いな~と思いながら通過すると、後ろから声がした。
「またくる?」
僕は振り返った。彼女は頭も上げてさえいない。
「うん、また来るよ。またな!」
すると少し顔をあげた彼女。
「またきてね」の言葉を期待したけれど、「ふ~ん」と興味なさそうに答えると、またゲーム機に顔を戻してしまった。
まったくしょうがないな~と思いながらも、僕はなんだかいい気分になった。
山地 弘純
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