棚経とは、お盆にご先祖様を迎えるため、各家々のお仏壇にお経をあげて回ること。年に一度の家庭訪問ともいえる夏の行事。
特にふるさとの宅配便のように楽しみに待っていて下さる都市部の方々との時間は、今年も僕の心に多くの彩りを与えてくれた。
あるお宅では、過酷な闘病生活のお話を聞いた。癌、くも膜下出血など、度重なる身内の病。それと必死に闘っていく家族。生きるという意欲が永らえさせる命。僕はただ胸を熱くして、うなずくのみだった。
病と闘う側、看病する側、それぞれのお話を伺いながら思った。病はたしかになった人しかわからない。だが苦しみも痛みも一人だけじゃなく、家族全員が共有しているのだと。きっとこの方たちの人生のページは、多くの試練と立ち向かっている分、ものすごく分厚いものになっているんだろうな。
帰り際に笑顔で、「今日は田舎の話ができて楽しかった。それに病気の話も聞いてもらえて嬉しかったし、なんかスッとしました」。そんな言葉をかけて下さった時、僕も嬉しかったし、なんだかスッとした。
またあるお宅では、普段はおばあさん一人で住んでおられる小さな家に子供達夫婦が大勢集って、毎年法事のようになっている。おばあさんが毎年嬉しそうに言う。「今年もみんなが来てくれました」。友人にも恵まれ、カラオケ、温泉、旅行など実に毎日を楽しんでおられる様子を生き生きとした表情で語っておられた。
そのおばあさんが、今年は少し元気がないとのこと。聞けば、仲良くしていた近所の友達が亡くなり、どうも心が沈んでいるとのこと。子供さん達は何とか元気に戻ってもらいたいと奮闘中で、病院に連れて行ってみたり、気晴らしに映画に連れて行ってみたり、新たな趣味や生きがいを見つけさせようと助力したり・・・。いい家族だな~って思う。おばあさん、どうか来年の棚行の時には元気な姿を見せてくださいよ。
他にも、去年行った時には娘が来年40才になるけど一人でいることが不安なんだと語っていた夫婦が、今年は嬉しそうに結婚式の写真を見せてくれた。
同じように、37才の息子がまだ一人なんだと心配していたお母さん。今年はニコニコと息子さんの隣に座る女性を紹介してくれた。「今年は家族が一人増えました。」
また別のお宅では、亡くなった娘さんの思い出話を涙を浮かべながら語るご夫婦。「娘は冷え性だったから、仕事から帰ると手が冷たくなってて・・・。すると真っ先に認知症で寝ているおばあちゃんのふとんに潜り込むんです。そんな年寄りのところに入らんでも、こたつに入ればいいやろって私らが言うんですけど、必ずおばあちゃんにくっついて、手を温めたり、じゃれあったり・・・。ほんとに優しい子でした」。仏壇には、おばあちゃんと娘さんの位牌が仲良く並んでいる。
人の数だけエピソードがある。嬉しいこと。楽しいこと。悲しいこと。辛いこと。だけどみんな前向きに生きようと、必死に手を合わせている。
僕は、様々な家族の思いを背中に受け、一生懸命おつとめをする。
見つめる先には先祖代々の位牌。過去を振り返るといろいろとあっただろう。永い世代を越えて、ずっと順風満帆だったなどということはありえない。深い悲しみも、大いなる絶望も、押し寄せる大きな波を全て乗り越えて来たからこそ、今の自分がある。この命までつながっているんだ。
ヒシヒシと感じる命の重みで胸がいっぱいになりながら、棚経は進んでいく。
「生まれ変わり死に変わり、永遠の過去の命を受け継いで、私たちは今、自分の番を生きている。それが私の命です。それがあなたの命です。」
お経に共鳴し、キラキラと輝いている過去の命が、あなたには見えるだろうか。
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山地 弘純
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