ある日、こんちゃん先輩が突然事務所から放送で呼び出され、ソファに座らされた。
そして幹事さんと寮監さんに囲まれる中、悲しい事実を告げられた。
「実は、君のお父さんが亡くなったと連絡があった」と。
きっと、脳天をかち割られたような衝撃だったに違いない。
「どうするのかは君の判断にゆだねるしかない」
幹事さんのその言葉に、先輩は
「残ります! 最後まで修行をつづけます!」
と号泣しながら答えたそうだ。
入学する前に、親の死に目にも会うことができない覚悟をもしとくように言われてはいるが、実際そうした場面に直面したらどんなに辛いことか。それは想像を絶するものだろう。
少し真面目さに欠けるように見えていたこんちゃん先輩。
しかしその後ぐっと引き締まった表情で熱心に取り組んでいる先輩の姿勢を見ていると、すごいな~と思うと同時に、なんだか切なかった。
今頃お葬式が行われているんだろうな~と思うと。。。
ほんとにみんないろいろと抱えている。
夜中に持病のてんかんの発作を起こしたものもいる。
アトピーがひどくなって苦しんでいる人もいる。
苦しいのは僕一人じゃない。
みんな余裕もなくなってきている。
ささいなことでイライラしたり、喧嘩になりそうなものもいる。
口数が減るものもいる。
ブツブツと独り言をいうものもいる。
そして、すでに2人がこの専修学院を去っていった。
2人ともみんなの知らない間に出て行き、部屋の荷物も気が付いたときにはからっぽだった。
そのうちの一人、Y君。
同じ「や行」で始まる名字のため、席はよく隣同士。よく話もした。
彼はすでに別のところで一度は100日加行を終えている。
いくら専修学院こそが正流だとしても、2度も加行を受けるなんて普通ならできない。
すごいな~と思っていた。
しかし彼はヘルニアという爆弾を抱えていた。腰を辛そうに伸ばしたりグルグル回したりする姿を何度も目にしてきた。
すでに限界を超えた腰で、半迦座を組む
こともままならないような状態になっている。
幹事さんや寮監さんの前で、どうにもならないのに、「まだやめたくありません」と涙しながら彼は言ったそうだ。
そんな彼の姿が自分にシンクロする。
どうしようもなくて辞めざるをえなかった彼と、まだ肉体的にできる僕。
格好も体裁ももう関係ない。
前半のころの明るかった自分のおもかげはないが、ただ押し黙って夢遊病者のようにフラフラと行法に向かう。
そうだ、まだ僕はできる!
(つづく)
山地 弘純
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