先日、京都コンサートホールで行われた御室金剛講結成を記念した全国大会。
高野山金剛講である我々も参加要請を受けて、参加してきたよ。
兵庫連合として3つの地方本部が合同での御詠歌奉納。
ぶっつけ本番になるのに、代表の先生が描いた脚本がまた難しいのなんの。
とはいっても並び方、歩き方が難しいのは後列14名の方達のことで、僕は前列で普通に座ってお唱えすればいいんだけどね。
みんなは開会前の30分ほどの時間に、ホール前のロビーで邪魔になりながらも予行演習してた。
大変そうだったね。
いよいよ大会が始まって、厳かに演目が進んでいく。
他の連合は寄せ集めではなくて、どこかの地方本部が代表して来ていたり、いくつかの合同であったとしても複雑な構成はさけている。
安定していて、素敵な奉納ばかりだった。
そしてついに僕たちの番がやってこようとしていた。
ステージの脇に待機する。
いつも練りに練る但馬の面々は練習不足に特に緊張しているように見えた。
それを見守りながら僕は、心の中で”みんな頑張れ!”と思っていた。
さあいこう!
薄暗い場所からスポットライトの当たる場所へと歩みを進める。
僕は最前列の一番右。
しっかりと人と人との間隔に気をつけて自分の場に腰を下ろす。
隣の人に動作を合わせながら、御詠歌の法具である「鈴鉦(れいしょう)」を下ろし、設置していく。
その瞬間、
!!?
あれ?
なんかおかしい!
一瞬僕は真っ白になりそうになる。
あれなんだっけ?
次になにすればいいんだっけ?
なんだろう。
なにかが足りないような・・・。
ハッと気づく。
あー!鉦がな〜い!!
鈴っていうのは左手にもってチリンチリンと鳴らすもの。
鉦っていうのは地べたに置いて杖木でそれをカチンと打ち鳴らすもの。
その2つの響きが御詠歌の味わいなのだ。
その右膝に置くべき直径5センチほどの円形の「鉦」をカバンの中に入れたまま忘れてきてしまってるという大失態に、どうしようという思いがぐわ〜って込み上げてくる。
でも僕はうちの生徒さんで過去二回これと同じ失敗例を知っていて、その時どうすればいいかってことまでみんなにレクチャーしていた。
さっとこの短い時間に瞬時に切り替える。
よし、エアーでやる!
そう決めた僕はエアーギターならぬエアー鉦打ちでやり始めた。
そう、今までみんな何食わぬ顔でそうすればバレずにできてきたんだ。
僕は自分で驚くほど冷静にエアーな動作を決めながら、声を張り上げた。
ただたった1つの誤算があった。
このホール、演者と観客との距離がものすごく近いのだ。
しかも目線がぴったりと合う。
目の前に座っているのは舞踊のお偉いさんである女性の方々。
快調にエアー奉詠する僕に向かって指差しながら何かを叫んでいる。
「しょう!しょう!しょう!」
あーもうやめて〜。
ほっといて〜。
このまま安らかに逝かせて〜。
僕は必死にその声が聞こえないようにと自分だけの世界へと意識を向けた。
バレたけどもうどうにもできないし、突き進むのみ。
しかし、しばらくすると観客席からなんといっぱいに伸ばした腕が差し出された。
その手の中にはなんと鉦があった。
(これを使いなさい。)
(わかりました。ありがとう。)
無言のやり取りの後、僕はおもむろにその鉦を掴み、あるべき場所にセットする。
流れは一瞬たりとも止めてはいない。
「カチッ。」
あー惚れ惚れする音色がする〜。
エアーが終わりを告げた瞬間だった。
それから先は今までにないほどの満ち溢れた奉詠になった。
安心感に包まれていた。
そして僕たちの全国大会の奉詠は終わった。
兵庫連合のみんながステージ裏で口々に感想を述べあってる。
やっぱり付け焼き刃ではピシッと揃わなかったり、細かいところでミスが出たみたい。
不思議なことに、みんな自分のことに精一杯だったからか、僕のあれほどの失敗を演者側は誰もが気づいていなかったこと。
もうこのまま秘密にしといてもいいかなって思ったんだけどね。
小さな失敗にくよくよしている人たちがいたんで言ってやったね。
「それくらいの失敗がなんですか。」
みんなに話したら、みんなが爆笑してくれた。
よりによって全国大会でやってしまうなんてな〜って思ったけれど、でも失敗って、ネタになるよね〜。
失敗したくない。
恥をかきたくない。
僕はずっとそんな思いが強かったんだ。
失敗させてほしい。
恥をかいてもいい。
失敗できないと、チャレンジできないから。
心の奥にある本音はこう言ってるのにね。
で、それ許せないのは誰なのかっていると、
そう、誰でもない自分自身なんだ。
失敗してもいいんだよ。
恥かしいってのは、おいしいってこと。
そんなマインドの変化は、実践によって養われていくんだってことを、今回やらかした自分の体験から誰かに伝えることができるね。
その後、僕は暗がりのホール内の最前列辺りで「僕に鉦を貸してくれた人は誰ですか?」と探し回った。
その人はすぐに見つかり、僕は丁重に感謝を述べた。
「上手だったわ〜。あなたばかり見ていた。」
そう言われて、やっぱり少しは気恥ずさが込み上げちゃったけど。
軽やかだった。
失敗に凹みやすい僕が、もう切り替わってる。
失敗してもいいんだよな〜。そう心でつぶやく。
失敗経験はブレーキじゃなく、次へのアクセル。
吹き抜ける京都の秋風。
忘れられない思い出がまた一つ。
山地 弘純
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