10年以上買い替えなかったスーツを買い替えた。
自分で精一杯できるだけの格好をして向かった今回のパーティー。
僕にとっては特別な思い入れがあった。
ずっと言うことができずにきた「ありがとうございました」という感謝の言葉を伝えたくて。
本王院様の法印職を無事に全うされた祝賀会。
僕の新聞のコラムを読まれた方は覚えておられるだろうか。
僕が不眠症で最も苦しんでいた時、救ってくださった人。
【コラム第13回】
「睡眠薬が残り一錠になった時、僕は切羽詰まって寮監さんに懇願した。
「すいません。薬をもらってきてください。」
しかし、寮監さんは首を縦に振らなかった。
「お前はまだ薬に頼っとるんか。 お前は信者さんで不眠症に悩んでいる人に対して、薬に頼れって言うつもりか。薬に頼るなって言わなきゃならん立場じゃないのか!」そう強い口調で言われた。
その通りだ。そんなのわかってる。僕だって薬になんて頼りたくない。だけど・・・。
押し黙った僕の様子を部屋の隅で見ていた幹事の本王院さんが口を開いた。いつも強面な表情と口調で、威厳があり、まるで不動明王様のような人だ。笑ったところなど、見たことがない。
きっと、さらに厳しく叱責されるだろう。僕は首をすくめた。
だが、相変わらずの厳しい口調とは裏腹に、かけられた言葉は意外なものだった。
「眠れないというのは、本当に苦しいんですよ。実は私も若い頃眠れなくて苦しい思いをしたのでね。よく気持ちはわかるんです。時期がくればまた眠れるようになるはず。どうか薬をもらってきてあげて下さい。」と、幹事さんは寮監さんに薬を取りに行ってくれるようにお願いしてくださった。
えっ?僕は信じられなかった。こんな威厳があって、幹事とい要職にまで就き、強き人というオーラを放っている人が、過去に不眠症に悩んでいたなんて。それで僕の気持ちまでわかってくれるなんて。
嬉しくて胸がジーンとした。そしてなんだか心強くも思えた。
後日、寮監さんから薬を受け取った。ほんとにありがたかった。」
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この言葉がなければ、僕は僧侶の道を挫折していたかもしれない。もしかしたら人生を挫折していたかもしれない。
それくらい僕の中で大きく残っている。
わかってもらえた。共感してもらえた。
だから僕は今ここにいる。
僕は今、心の相談員、またスピリチュアルケアワーカーの卵として、介護施設や自坊でいろいろな方と関わらせていただいている。
その際に大切なことは共感だと教わる中で、常に浮かんでくるのは本王院さんがわかってくださったこのシーン。
ほんとに苦しい時に欲しいのは意見じゃない、共感なんだってことを、僕は身を以て知っている。
僕にとっての恩人。
大人数の中で、この時の詳細はお話できなかったけど、とにかく真っ直ぐに感謝を伝えることができた。
何のことかわからなかったに違いない。
でも、僕が伝えたかった。
それだけのこと。
だから一方通行で十分なんだ。
今日はとても素敵な日。
みんなが「法印職成満おめでとうございます。」「お疲れ様でした」と伝える中、僕は「あの時はありがとうございました」とそっと伝えた。
山地 弘純
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