先日児童施設実習を終えたが、2ヶ所の施設実習が必要であり、もう一ヶ所は病院を選んだ。
本当は尊敬する徳永先生のおられる野の花診療所を考えていたのだが、「今入院をやっていない」とのことで断念。
しかしナースである中学時代の先輩が親身になって探してくれた智頭病院へとお邪魔することになった。
11月25日。ものすごい強風と横殴りの雨の中車を走らせながら、大変な日になったなと思った。
いつもながら目的地が近付くにつれ、鼓動が高鳴る。
智頭病院デイケア室。活動内容は地元のデイサービスとそんなに変わらないだろう。
ただ病院との繋がりができるということは大きなことだった。
着いて事務の方に挨拶すると着替えの部屋に案内される。僕はそこでジャケットからジャージへと着替えた。
その後院長室へと通される。ドキドキ。
驚くほど丁重に接していただき、少しお話をした。
「もしかすると君が思っているような研修は望めないかもしれない。学ぶことがあるかどうか。心の相談員の一環として来られたということだが、今我々が望んでいるものがまさにそういう部分で、不足しているかもしれない。今日一日終わったら、また感想聞かせて。」
そして連れられて行ったデイケア室。まず驚いたのが、スタッフのみなさんからの厚い歓迎だった。一人一人丁寧に挨拶してくださり、一日の仕事の説明をしてくれた。
8時15分に全員集合。看護師さん、介護士さん、送迎車の運転手さんと一緒にお茶を飲んだ。20分に各方面へと分かれて車が出発。
僕は表情豊かで、笑顔もよくておしゃべり上手なとても素敵な女性介護士さんとご一緒させていただいた。
天候が悪いが、智頭町の奥へ奥へと走る車の中から見る景色はとても素敵だった。
4名のおじいちゃん、おばあちゃんを迎えていく。
家の付近に車を止めて少しだけ歩く。
介護士さんは僕に向って「ここのおばあちゃんはすっごくかわいいんです」「このおじいちゃんとの会話のやり取りが楽しくて」とか僕に説明してくれる。
そしてそれぞれに違いを付けた楽しいコミュニケーションを繰り出すのを見ていると、こちらまで自然と笑顔になれた。
「戸締りちゃんとしてね」
「かぎはいつものここに入れとくから」
「かばんは持ちましたよ」
家族のように世話をやき、また相手はそれに信頼を寄せる。
「この人は半身に麻痺があるので左が見えてないので気を付けて。」
「このおじいちゃんには杖を2本で、極力自分で歩かせて。」
「このおばあちゃんは車いすで。」
そっと僕に教えてくれる。
「こっちに体をあずけて~、いち、にー、さんっ!」
ほんとに大変な持ちあげるという行為をうまく相手の力を利用してする姿に、女性なのにすごいな~と感心する。これも特殊な技術。僕は手出しもできない。
「右足をあげて」
「左足をあげて」
特に不自由な方には、ゆっくりと一つ一つ声をかけながら進む。
強い風雨は、車いすごと包み込むギンギラギンの合羽をかぶせてふせいだ。ギンギラギンはおばあちゃんの表現。銀のアルミのような素材の合羽だった。
車に乗り込むと席に固定し、ひざに毛布をかける。
「気分悪い?ちょっと上着のチャックおろして空気入れようましょうか。」
様々なことで、ほんとによく気が付くな~と感心した。
道中も介護士さんはみんなと世間話をしながら過ごしている。
僕もおじいちゃんおばあちゃんとの会話は慣れているので、車いすのおばあちゃんと話をした。
「おばあちゃんはどこで生まれて智頭に嫁いだんですか?」
言葉はたどたどしいが、笑顔で答えてくれる。
「へ~子供は4人。男と女が2人づつ?うまいこと生みわけられましたね~。うちは女二人なんですけど、どうやって男作るんですか?」
「わからんけど、勝手に生まれた。」
みんなが聞いて大笑い。
病院に着くと、車からみんなを下ろしていくのもなかなかに難しい。
僕は車いすを腰掛けやすくセットしたのだが、ブレーキをかけるのを忘れていて、お尻をいざ下ろそうというときに動いてしまった。ごめんなさい。ブレーキがあることさえ知らなくて・・・。
幸いなにごともなかった。
みんなを自分の席に案内し、手の消毒、お茶出しをする。
こんなことなら僕もできると、ようやく自分から動くことができた
看護師さんが脈拍を測定していく。「バイタルサイン」というのだそうだ。
落ち着いたところで、前で自己紹介をさせてもらった。
スタッフのみなさんも盛り上げてくださり、とてもいい感触だった。
9時ごろから4時ごろまで、みなさんとご一緒させていただく。
発声練習から始まり、集団リハビリ体操、歌唱、レクレーション。
なるほどな~。お寺での御詠歌の際にも、こういう体操を取り入れるといいかもしれないなどと考えながら、一緒に行ったり、フォローしたりした。
12時には昼食。ご飯もみんなで食べると美味しいに違いない。
隣には理学療法士の先生によるリハビリ室があり、みんなが交代で向う。誰もが日常生活における自立能力の維持、向上のために頑張っているのだ。
このリハビリが、病院のデイケアと一般のデイサービスとの違う部分なのかな~と思った。
午後からはゆっくりコーヒーをする時間もあり、僕もいろいろお話をした。特に智頭には真言宗のお寺が多く、御詠歌の同期の方のお寺の檀家さんの方もおられたりして、話が盛り上がった。
週に2回か3回。みんながこのデイケアの日を楽しみにしているとのこと。心も体も引きこもりがちになる人たちにとって、こういうケアは解放の時なんだろうな~と感じた。
昼寝をする人は半分くらい。
中には午後からは早く家に帰りたがる人もいる。
じっとしていられなくて何度も立ちあがる人もいる。
何度でも笑いながら同じ声をかける看護師さん、介護士さんは素敵だ。
午後4時前、今度は自宅へ送っていく。
最後に挨拶をさせていただいたら、みんなから「また来て下さい」と言っていただいた。
僕は「はい、また来ますね」と答えた。
車に同乗して、6人の人を見送った。
やはり介護士さんの優しい別れの言葉に、僕もなんとなく胸が温かくなりながら、今回の研修は終了した。
病院に戻ると、デイケア室になんと院長先生がわざわざ来て下さり、僕を待っていてくださった。
「どうでした?」
僕は一言で答える才能もないのだが、「細やかな思いやりを感じさせてもらいました」と答えた。
そのあといろいろと話が盛り上がり、院長先生と事務長さんと看護室長さんと僕の4人でのミーティングのような形になった。一時間半。議論は深まった。
その中で病院の課題なども聞かせていただいたし、お坊さんという存在との連携の期待もしていただいた。
「我々は癌の告知もします。またそれ以上に大きな問題となってきているのが認知症です。これらの方々に未来をあきらめないことを伝えていくには、仏教というものを学んでいる人の存在はとても大きい。」
僕はお坊さんとしてこんなに求めていただいたことは初めてだったので、なんだか恐縮しながら聞いていた。
冗談っぽく、「ここで勤めてみない?」とも言っていただけたことは、本当に驚きであり、嬉しいことだった。
「今日は彼が来てくれて、彼は彼なりに得るものがあったと言ってくれたが、本当に得るものがあったのは我々の方なんだ。明日みんなと彼が来てくれたことがどういう意味があったか、もう一度話し合い、振り返ってもらいなさい。」
そう看護室長さんに告げる院長先生の言葉に、なにもしていない僕はむずがゆさを覚えながらも、僻地病院のなんとかしなきゃという意識の高さを感じた。
そして院長先生は続けた。
「僕も話をしていて思ったんだが、もしかしたら我々にとって大事なものって、介護の現場にこそあるのかもしれないな。」
医師不足、看護師、介護士不足、経営困難に立ち向かう気概を感じるこのディスカッションにご一緒できたことは、僕にとってものすごく大きかった。
成長しようと努力しているのは僕だけじゃないんだ。病院側もこれを好機にと努力する姿があった。
「近くにデイサービスもあるのになんでそんな遠くへ・・・」と親に言われながらも、ただただ好意に身を任せることを決めたこと。
やっぱり間違いじゃなかった。なにかしらの導きがあるって信じていたから。
さて、院長先生の言葉をどう捉え、どう生かしていくべきたか。
僕の目指す道はまだまだぼやけているけれど、一つ一つの出会いごとになんとなく形づけられていく気がする。
デイケアの利用者の皆さん、また院長先生及びスタッフの皆さん、いい一日をありがとうございました。
山地 弘純
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