ゴールデンウィーク中に法事に行った時懐かしい顔に会った。
習字教室での教え子だった。
僕が修行を終え、実家に帰り、習字教室を手伝い始めたのは24才の頃。
大学で書道をみっちり学んではきたが、教えるのはほんとうに大変だと実感した。
初めての教え子。
それが彼らだった。
僕よりちょうど10才年下の学年の子たちは、素直で人懐っこかった。
僕にとってはずっと忘れられない子供たちだ。
特にシンゴは優しい子だった。
彼はその中では一番おとなしく、ぼそぼそっとしゃべるが、無口ってわけでもなかった。
展覧会の準備で少し手が足りない時、中学生の子は手伝いにきてって僕が頼んだ時、他の子がみんな「え~~!」って腰が引ける中、「なんで?行こうや。」ってぽつりと彼が言ってくれたことは今も覚えている。
シンゴが行くならって、結局みんなが手伝ってくれた。
その時だけじゃなかった。
彼はいつでも引き受けてくれた。
強く引っ張るタイプじゃないのに、なんだか彼がみんなを連れて来てくれた。
他の子たちも優しい子なのでなんだかんだ言って手伝ってくれる。
照れくさいだけなんだ。素直に手伝いますって言うのが。
僕と同じだ。
その点、シンゴは茶化さず素直に表現できる、真面目な子なんだなって僕は思った。
何年ぶりに会っただろうか。
法事のお膳で、たくさん話をした。
彼は変わっていなかった。
相変わらず優しい子だと思った。
遠くの地、滋賀で就職が決まったらしい。
働き先のない田舎がうらめしい。
僕は「シンゴ、いつになってもいいから必ずここに帰ってこいよ」って彼に言った。
彼は「そのうちきっと帰ってきたいと思ってます。」そう答えた。
彼のお父さんもそれを初めて聞いたのだろうか。
「ほんとか?こっち帰ってきても仕事がないぞ」
と言いながらも、表情がかなり崩れていた。
とても嬉しそうだった。
僕はなんとかならないものかなって思った。
彼だけじゃない。
ほんとは帰ってきたい、親のことが心配だっていう子たちはほかにもたくさんいる。
なんだかんだと話は尽きることなくあっという間に時間は過ぎていった。
気が付いたら時計は3時を回っていた。
僕は迷惑がかかるので、法事のお膳からは1時半か2時には失礼すると決めている。
あ~しまった、こんなにも遅くまで・・・。
食事の後片付けをする女性陣にはものすごく迷惑をかけてしまったなと思った。
彼は明日から新人研修で、秋田に向うと言う。
「帰省した時には、善住寺に遊びに来いよ!」
そう言って、名残惜しいけど別れた。
田舎である新温泉町の中でも、さらに奥に分け入った未開の地。
その場所を彼はちゃんと素晴らしいとわかっている。
シンゴの隣の家では田植えでみんなが集まっていた。
普段はおばあさん一人暮らし。
田植えでは息子さん方男兄弟、さらにそれぞれの孫たち、そしてひ孫まで。
みんなが勢ぞろいで力を合わせる姿を見て、すごいと思った。
出ていった者たちがゴールデンウィークには必ず集い、一つの大きな財産を育てていく。
故郷。そこはみんなが集える場所だ。
田舎から出ていってしまったみんなへ。
どうかいつまでも故郷を心に抱いて、生きていって下さい。
そして必ず帰ってきて欲しい。
その場所は変わらずあなたを、待っていてくれるはずだから。
山地 弘純
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