先日、嫁さんの友達がわざわざ東京から来てくれた。
お父さんとお母さんと3人で。
嬉しかった。
お寺の案内をしていると、あるものが目に入った。
阿弥陀堂の登り段の真ん中にちょんと置き去りにされた蝉の殻。
こんなものでも都会の方には珍しいだろう。
彼女の服にそっと付けてあげた。
蝉は約7年もの地中生活を経るも、地上ではわずか7日間ほど過ごしたら死んでしまう。
それをかわいそうという人もいるが、はたしてそうだろうか。
ミンミン、ジージーと鳴き続ける蝉たちは、オスがメスを呼び寄せる行動だということだ。長い準備期間を経て、最後の最後に生涯の伴侶を見つけ、子孫を残してその生を終えていく。
そんなハイライトが最後には待っていて、彼らはその最後の瞬間にありったけの輝きを放つ。
ほんとうに素晴らしいと思う。
人間の人生が80年あるとして、それが蝉の一生と大差があるのだろうか。
いやむしろ空しく過ごしているなら、蝉の一生の方が中身は濃いのではないだろうか。
蝉は教えてくれる。
本当に大事なのはなんなのか。
短くても太く生きればいい。
明日が見えなくても、今日を精一杯生きればいいと。
木々の豊富なこの辺りでは、蝉の声がうるさすぎず、どこか癒しを与える。
夏の風物詩に、心がなごんだらいいなと思った。
県内第一位のヒメコマツの巨木同じく、県指定のひいらぎの古木。
彼女はこれに心ひかれたようだった。
ひいらぎの木の下の方からは若い芽が出ている。
若いひいらぎの葉は、とげとげしていて触ると痛い。
鬼も嫌がるほどと言われ、節分でもイワシの頭とともに出入り口に飾られる。
しかし古いひいらぎの葉は、丸くなりつるんとしている。
誰もが「これがひいらぎ?」と驚く。
ひいらぎの古木は本当に珍しいようだ。
いつもこの木を説明しながらこんな話をする。
「人間も若い時には棘があるでしょう。
それはしょうがないことです。
だけどおじいちゃんおばあちゃんは優しいでしょう。
私たちもこのひいらぎのように、年を取るごとに
丸くなっていかないといけませんよ。」
ひいらぎの葉は、僕たちに教えてくれる。
段々に変わっていかなければいけないと。
角が取れていかなければならないと。
すごーいと感嘆しながらひいらぎの写真を取る彼女説明しながら、僕の方が再確認させられた。
僕ももっと丸くならなきゃな。
大自然は多くのことを教えてくれる。
真言宗は密教と言われる。
それはこういう大自然に隠されたメッセージを読み解くことにあるからだ。
大自然より明かされる秘密の教え。
それを人生によりよく活かし、融合していくことが密教の醍醐味ではないだろうか。
来てよかったと喜んで帰ってくれた彼女。
帰ったら撮影会だったそう。
自分のデジカメ。
お父さんの一眼レフ。
モデルはなんと蝉の殻。
そんな様子を想像すると、僕らの方がが楽しくなってくる。
ほんとうにこんなところまでよく来て下さったと思う。
なにもない田舎の善住寺に。
なにもない?
いやそんなことはない。
ここにはすべてがある。
山地 弘純
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