千人を越える参拝者でにぎわった4月25日の御開帳がまるで昨日のことのように思われ、もうお扉を閉じなければならないのかと、やや寂しいような名残惜しいような気持ちで迎えた11月21日。
檀信徒130名ほどに見守られ、密やかで厳粛な御閉帳の儀式が行われた。
この日までわずか半年ほどの御開帳期間であったが、多くの方々が普段は見ることができない御本尊様のお姿を間近に拝み、しっかりとご縁を結ばれた。
わざわざ遠方よりぜひともお会いしたいと駆けつけた方、家族親類みなに拝ませたいと大勢を引き連れて来られた方、遠足のコースに組み込み学校をあげて歩いて来られた温泉小学校の生徒たち、まともに歩くこともできないのに這うようにしてでもお参りに来られたおばあちゃんなど、いったいどれだけの人たちがお参り下さったのだろう。
その数ははるかに予想を越えるものだった。
檀家のみなさんも、普段は善住寺にご縁のない方々も、この生涯に一度巡り合えるかどうかという貴重な機会に立ち会えたことに、ある者はただひたすら感謝し、ある者は胸を震わせて感激し、ある者は涙した。
御開帳大法会に際してコンサートを行ったプロの女性歌手であるPaix2(ぺぺ)のお二人も、十月に再び善住寺を訪れている。彼女たちの10周年を記念して新曲が10月に発売された。その新曲のレコーディングする前に、僕に電話がかかってきた。
「今回新曲を録ることになりました。レコーディングにはいろいろな人たちが関わりあってきますし、ハードな日程になるので不安なんです。久しぶりのチャンスなんで、なんとか無事に成功するように御祈願して下さいませんか。なぜか善住寺の御本尊様が夢にでてくるんです。」
彼女たちは数多くのお寺で今までにコンサートをしてきている。そんな彼女たちがうちの御本尊様を特別に感じ、御祈願の依頼をしてきてくださるなど思いもしなかった。
早速に御祈祷を行い、お札とお守りをお送りした。
そして無事に素晴らしい新曲を録り終え、発表することができた喜びの報告に御本尊様の下へお礼参りに来られたのである。
ぺぺのマネージャーさんはこう言われた。
「私たちは多くのお寺や史跡などパワースポットと呼ばれるような場所へ行きましたが、このお寺からはほんとうに何か感じます。こここそパワースポットですよ。」
信仰心あるベテランマネージャーのその言葉から、僕は御本尊様の大いなる力をより一層強く思い知らされた。
彼女たちだけではない。誰もが強く御本尊大日如来様のお力を感じていただいたに違いない。それほど善住寺の御本尊様は素晴らしく拝み込まれている。
このにじみ出るお力の源は、歴代住職の読経のみならず、過去から現在へずっと繋いできた檀信徒のみなさんの思いが、御本尊様の内にギュッと凝縮されているからなのだと、僕は今回の御開帳を通じて改めて知った。
50年に一度の御開帳がいったい何を意味するのか。ずっと考え続けた疑問に、ある一定の答えがもたらされた気もする。
この世で生きる上で最も大切にしなければならないのは、目に見えない、形にできないものを感じる力なのだ。
優しさとか思いやり。
人と人との絆。
繋がっている命。
普段は隠されている秘仏御本尊様は、そんな目に見えない大切なもの暗示しているのかもしれない。
その秘めた部分がふっと姿を現すとき、我々はとんでもない感動と共に、大いなる気付きを与えていただけるのだと思う。
御開帳と共に溢れ出す御本尊様の光は、まるであぶり出しの文字のように、透明色のメッセージを鮮やかに照らし出した。
50年前の方々から届けられた熱い思いが溢れた御開帳の瞬間。
そして、我々が50年後の未来へ届けるべくお扉の中に想いを閉じ込めた今回の御閉帳。
わずか半年間の間に響き渡った魂の共鳴。
元のお姿が見えない状態に戻られた今も、この胸に今だ残る放熱の証を、僕はずっと忘れない。
「相互供養 相互礼拝」
御本尊様がおられるから我々が在る。我々があるから御本尊様が在る。
御本尊様は、本当に壮大な時代を超越した宝物だ。1000年以上も心変わることなく一つの存在を愛し、敬い、信じ、祈り続けてきたのだから。
その存在を再確認した今、50年後までお扉の中で姿を見ることはできなくなった御本尊様を今まで以上に祈り続けていこうと心に誓った。
僕はこのような御本尊様に見守られた善住寺を誇りに思うし、また皆様にも檀家であることを誇ってもらいたいと思う。そして今回初めて善住寺にお参りに来られたという方々にも。
我々の善住寺は、この御開帳を経験して、さらに強く結ばれたと信じている。
合掌
山地 弘純
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