先日、僕と同じく御詠歌を志す先輩から話を聞いた。
日本でワールドカップが行われた時、デンマークの選手の奥さん方が高野山に観光に来た時のことを。
高野山の金剛峰寺で、受戒を受け、お祈りをしたそうだ。。
たまたまそのときの導師を勤めたのが先輩だった。
「それではデンマーク代表チームのために、おいのりをいたしましょう」
奥さん方は喜んで言った。
「あなたはデンマークの勝利を祈ってくださるのですね」
「いえ、デンマークの勝利を祈れば、相手の敗北を祈ることになるでしょう。私たちの信じるお大師様はもちろん、あなた方の信じる神様も、そのようなことをお望みではないでしょう。」
「それではいったい何を祈ってくださるのですか?」
「私は、デンマークの選手たちが、怪我なく、持っている力を全て出し尽くすことができるように祈りましょう。いや、デンマークだけじゃなく、両チームが目一杯サッカーを楽しめ、最高の試合ができるように!」
それを聞いた奥さん方は、ものすごく喜んでくれたということだった。
「ありがとうございます」
僕は思った。さすが先輩だなと。
そして、奥さん方も素晴らしいな~と。
僕の大好きなこの時のデンマーク代表。
隠された秘話が、高野山にもあったことが嬉しかった。
『少年とストライカーと約束』
その絵本を読み直せば、もう一つの物語が蘇る。
意外と知られていない、こんなお話が。。。
2002年日韓ワールドカップ。
デンマークは、2大会連続、3回目の出場を決めた。
そして、このデンマークは今大会のキャンプ地である和歌山県にやってきた。
他のキャンプ地では、遅れてばかりで有名になったカメルーンと
ベッカムフィーバーでわいたイングランドと淡路島。
これらが有名である。
和歌山のホテルでの最初の食事を迎えた時、ある選手が通訳に聞いた。
「デンマークでは食事するとき神への祈りをするのだが、日本では食事始める時に何かするんですか?」
デンマークは国民の9割がプロテスタントである。
神への祈りを終えてから食事を始める。
「日本でもキリスト信者は神に祈ってから食べるけど、たいていは手を合わせて『いただきます』と言ってから食べます」
と通訳は答えた。
すると彼は・・・
「こうやるの?」と通訳に聞きつつ、手を胸の前で合わせた
「そうそう!その両手をもう少し上に上げて!」
その通訳の言葉に彼は顔の前まで手を上げる
「そうそう!」
そして彼はその姿のまま、コック長の方へ向き頭を下げながら、たどたどしい言葉で「いただきます」と言った。
それを見ていた他の選手たちも彼にならい、手を顔の前で合わせた。
それ以来、食事のたびに手を合わせる選手たち。
コック長はつぶやいた。
「今の日本人でも『いただきます』『ごちそうさま』言えないヤツが多いのに・・・」
この最初に手を合わせた選手の名を、トマソンといった。
デンマークというチームは練習を公開し、和歌山県民との交流を積極的に行った。
練習後は地元サッカー少年たちとミニサッカーを行い、
握手会、サイン会もたびたび行った。
気さくなデンマークの選手たちを県民も大好きになった。
あの日もデンマーク選手たちのサインを求め長蛇の列が出来上がっていた。気軽にサインをするデンマーク選手たち。
もちろんトマソンもその中にいた。その最中のことである
トマソン
の前にある少年が立った。
彼はトマソンの前に立ちつつも、少しモジモジしていた。
後ろに立っていた母親らしき人が彼を促す。
「ほら!早くしなさいね」
トマソンも少し「変だな」と思ったのだろう。
通訳を通じ「どうしたの?」と彼に聞いた。
意を決した少年は、ポケットから一枚の紙切れを出し、トマソン選手に渡した。 それは学校の英語の先生に書いてもらったものだという。
英語で書いた、その紙切れにはこう書いてあった。
「ボクは小さい頃に、病気にかかって口と耳が不自由です。
・・・耳は聞こえません、言葉は話せません・・・
だけどサッカーだけはずっと見てきました、大好きです。
デンマークのトマソン選手が好きなんです。頑張ってください」
その光景を見ていた通訳も記者たちも言葉が出ない・・・。
だが、トマソン選手はニッコリと微笑み少年に手話で語りかけた。
「それなら君は手話はできますか?」
その行動に驚く少年と母親
再度聞くトマソン・・・
「手話はわかりませんか?」
それを見ていた記者がトマソンに英語で伝えた
「ミスタートマソン、手話は言語と同じで各国で違うんですよ」
手話を万国共通と思う人が多いのだが、国によって違う、ましてや日本国内でも地方によって違う。
「そうだったのか・・・」
そして彼は通訳にこう言った
「ボクは彼と紙で、文字を通して話をしたいのですが手伝ってください」
微笑んで「わかりました」と答える通訳。
そして通訳を介し、少年とトマソンのペンでの『会話』が始まった。
「君はサッカーが好きですか?」
「はい。大好きです」
「そうですか。デンマークを応援してくださいね」
「はい。あの聞いていいですか」
「いいですよ。何でも聞いてください」
「トマソン選手はどうして手話ができるんですか?正直、ビックリしました」
この少年の質問に彼は答える。
「ボクにも君と同じ試練を持っている姉がいます。
その彼女のためにボクは手話を覚えたんですよ」
その彼の言葉をじっくりと読む少年。
そしてトマソンは少年に言った。
「君の試練はあなたにとって辛いことだと思いますが
君と同じようにあなたの家族も、その試練を共有しています
君は一人ぼっちじゃないという事を理解していますか?」
この言葉に黙ってうなずく少年。
「わかっているなら、オーケー!
誰にも辛いことはあります。君にもボクにも
そして君のお母さんにも辛いことはあるのです。
それを乗り越える勇気を持ってください」
このやり取りにかすかな嗚咽をもらす母親。
この光景を見ていたまわりの人たちも涙した。
そして、トマソンは最後に少年にこう言った。
「ボクはこの大会で必ず1点獲ります。
その姿を見た君が、これからの人生を頑張れるように!」
(つづく)
山地 弘純
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