いつ行ってもきたないお宅。
掃除はできていない。物が置きっぱなし。洗濯物は散らかっている。テレビは付けっ放し。
あげくの果てには仏壇の扉にハンガーがかかっている。
唖然。。。
それでも、いつも「こんにちわ」と言って上がり込むと、おばちゃんが突然の来訪者に驚き、慌てて片付け出す。
っていうか、毎年同じ日に来るんだから、前もってしとけばいいのに・・・
そんなこちらの思いもお構いなしに、おばちゃんはぞうきんでふき掃除を始める。
「すいませんね~、きたないところに」とか言いながら。
ドタドタ・・・バタバタ・・・
もちろん焼け石に水。
僕はおばちゃんの忙しない動きを横目におつとめをする。
でもお参りに来てからでも、しようって気持ちがあるだけマシなんかな~って思ってみたり。。。
あ、おばちゃん頼むからハタキはかけないで・・・
「荒屋敷 ほこり舞い散る お盆かな。 コウジュン」
あの世では阿頼耶識(あらやしき)という心の深層部分に目覚めるというが、花が舞い散る仏の国ならともかく、このようなホコリの舞い散る荒屋敷(あらやしき)の中でのお盆のおつとめでは、ご先祖さま方も目覚めようがないだろう。
ちょっとそれっぽく詠んでみたりして(笑)
毎年毎年同じことの繰り返し。
僕ももう慣れたといえば慣れたけれども。。。
お盆の風物詩かな。
それが・・・
去年行ってみると、おばちゃんが落ち着きはらって正座し、「暑い中ごくろうさまです」と僕を迎えて下さった。
片づけられた洗濯物。掃除された部屋。ちゃんと飾られた仏壇。
ハンガーなど、もちろんない。
僕のおつとめ中、後ろで静かに手を合わせておられた。
僕はただ感動しながらお経をあげていた。
へ~、やろうと思えばできる人なんだな。
だけど、これはある意味事件だな。
終わって後ろを向くと、丁寧におじぎしてくれた。
そしていそいそとお茶とお菓子を取りに行く。
ちゃんと事前に準備していたようで、自信満々な様子で僕に差し出した。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
僕はそう言いながら、湯のみの蓋を取った。
あれ?
・・・・・
からっぽだった。
「あ!!」
と言ったおばちゃんの顔が紅潮する。
「すみません、申し訳ありません」
僕は思った。あ~入れ忘れたんか~。ま~しょうがないな~。
大丈夫・・・
その言葉を口にする前におばちゃんの予想だにしない言葉がさえぎった。
「すみません、 あの~・・・
お茶を沸かすのを忘れました!」
深々と頭を下げているおばちゃんを、ただ呆然と見つめる僕。
そ、そうきたか。
な、なんて返しゃいいんでしょうね・・・
そりゃないっしょ。
入れ忘れたならともかく・・・
沸かすのって(笑)
おばちゃん、やっぱ慣れんことをするもんじゃないね~。
だけど、オチとしては完璧やわ。
上げて、上げて、ドッカーンと落とす。 うまい!
僕は、次のお宅に向かいながら、思い出して爆笑していた。
こりゃ事件どころじゃない。
大事件だ。
今年もそのお宅にお参りに行った。
去年ほどじゃないが綺麗にしてあった。
隅に積み上げられた多分洗濯物であろうふくらみの上には、毛布が掛けられていた。
おばちゃんはテレビを消しておじぎをした。
おつとめ中にがちゃがちゃと湯のみの音がした。
お茶を入れているのだろうか。 頑張れ、おばちゃん。
おばちゃんは今年こそ完璧よっていう感じで、僕の真横に背筋をしゃんと伸ばして座った。
合掌の手をそこまで上げんでもいいだろうってくらい両肘を張って上げていた。
おばちゃん、今年こそって雪辱を期してるな~って思うと、笑ってしまいそうになった。
終わったらいよいよお茶出しの時。 運命の瞬間。
僕はまだ湯飲みの蓋を開けるまでは油断ができない。
どきどき、どきどき・・・
ゆっくりと蓋を持ち上げる。
あ~! 入ってる~!!
よくやったよ、おばちゃん。 ついにやりとげたね~!
あ~、ほっとした。
僕は二年分のお茶をいただいた。
麦茶だった。
よくぞ沸かしてくださったと思うと、笑いが込み上げそうだったが。。。
おばちゃん、今年は完璧だったよ☆
ご先祖様も喜んでるだろうね☆
お盆の風物詩。 転じておばちゃんの逆襲。
はたして来年は・・・
ちゃんちゃん♪
(来年につづく)
山地 弘純
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