眠れない状態は続いた。
体全体に力が入って、神経は高ぶり続けた。
ある晩、今まで緊張させ続けた肉体がピークを迎えた。
布団の中、仰向けで天井を見上げる。
相変わらず眠れないから、歯をギュッと噛み締める。
その瞬間、全身に電流が走ったような気がした。
ぎぎぎぎぎ・・・・
う、動かない。
腕を上げようにも、足を伸ばそうにも、口を開こうにも、全てが言うことをきかない。
まるで金縛りにあったかのようだ。
頭の先から足の先までどうにもならない全身の硬直が続く。
これはもうほんとにダメだ。
ほんとの限界がきたんだ。
そう諦めながら、体の硬直に身を任せて、天井の板をただ見つめていたら、突然ストンッと力が抜けた。
あっ、と思った。
体が言うことを聞く。
それに何より、今までよりも楽になった感じがする。
もう力が入る所がなくなったから、一気に抜けたんだろうか。。。
緊張の糸が切れる。普段はあまりよい意味では使っていないが、いい意味で糸が切れたのかもしれない。
きっとしんどい頂点だったに違いない。
多分抜けた。
あとはよくなるだけだと思いたい。
実際、この時から薬を飲めば3、4時間眠れる状態に戻った。
薬の睡眠誘導の波を乗り越えることはない。
ただ、睡眠薬の数には限りがある。
先のことを考えると、ないと不安だ。
残り一錠になった時、僕は寮監さんに訴えた。
「すいません。薬をもらってきてください。」
しかし、寮監さんは首を縦に振らなかった。
「お前はまだ薬に頼っとるんか。 お前は信者さんで不眠症に悩んでいる人に対して、薬に頼れって言うつもりか。薬に頼るなって言わなきゃならん立場じゃないのか!」
そう強い口調で言われた。
その通りだ。
そんなのわかってる。
僕だって薬になんて頼りたくない。
だけど。。。
押し黙った僕の様子を部屋の隅で見ていた幹事の本王院さんが口を開いた。
いつも強面な表情と口調で、威厳があり、まるで不動明王様のような人だ。
笑ったところなど、見たことがない。
きっと、さらに厳しく叱責されるだろう。
僕は首をすくめた。
だが、相変わらずの厳しい口調とは裏腹に、かけられた言葉は意外なものだった。
「眠れないというのは、本当に苦しいんですよ。 実は私も若い頃眠れなくて苦しい思いをしたのでね。
よく気持ちはわかるんです。 どうか薬をもらってきてあげて下さい。」
と、幹事さんは寮監さんに薬を取りに行ってくれるようにお願いしてくださった。
えっ?
僕は信じられなかった。
こんな威厳があって、幹事という要職にまで就き、強き人というオーラを撒き散らしている人が、過去に不眠症に悩んでいたなんて。。。
それで僕の気持ちまでわかってくれるなんて。。。
嬉しくて胸がジーンとした。
そしてなんだか心強くも思えた。
後日、寮監さんから薬を受け取った。
ほんとにありがたかった。
ただし、ハルシオンは診察に来ないと出せないとにことで、もう少し軽い薬をもらった。
僕は残り日数を薬の数で割る。
何日に一つも飲めばいいのか。
この時点で50日が過ぎていた。
残り半分。
日数が半分を超えた時からカウントダウンを始めた人もいる。
加行終了まであと50日。あと49日、あと48日。。。
やめてくれ。
先を見ると気が遠くなるから、僕はあまり考えないようにした。
(つづく)
山地 弘純
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