眠れなくても食欲が出てきていた。
体の方が眠れないことに順応してきているんだろうか。
たくましくなってきている。
夜が長いとおなかが減る。
僕はストレス食いだったのだろうか。
今までこんなに食べたことがないってくらい、胃袋に詰め込んだ。
とにかく少ないおかずで、ご飯をどれだけ食べれるかというのが勝負。
つけものの入れ物は瞬く間に空になった。
食事を作るおばちゃんたちは、僕達のために心を込めて、様々なメニューを考えてくれている。
本当の豚カツを食べているかのような、大豆でできた精進カツ。
同じく大豆でできた唐揚げは鶏肉のような食感だ。
アゲやこんにゃくで作られたカレーライス。
昼や夜のメニューはほんとにバリエーションに富んでいた。
朝はだいたいご飯と汁物だ。
だけど寒い高野山。少しでもみんなの体を温めてやろうという配慮だろう。
大量に入った唐辛子で、体の中から発熱するピリ辛の汁物が多かった。
僕はあまり寒さを感じなかった。
どうも自律神経がいかれていまったのか、常に体がカーッと熱い。
なんだか微熱があるような感覚だった。
みんなが寒さに身震いする中、頭を水道水で冷やしに行くのは普通ではない。
もしかしたら、更年期の人ってそんな症状なんだろうか、とも思った。
自分のことで精一杯の人が多い中、いつも僕を励ましてくれる坪ちゃん、エトちゃん。
サッカーの話をしたり、のんびりとした空気を作ってくれたエムちゃん、シュウテン。
極限の中でも、みんなのいじられ役で僕を笑わせてくれるヨッシー。
他にもマッサージをしてくれたり、お灸をすえてくれたり、行法中に僕のことを祈ってくれたり、僕を一緒に卒業させようと多くの人たちが助けてくれた。
特に、年上のルームメイトとうまくいかなくなった僕を、自分のルームメイトとして受け入れてくれたトコちゃん。
Y君がいなくなって一人部屋になっていたトコちゃんが、僕を受け入れてもいいと寮監さんに言ってくれなければ、僕はどうなっていたことか。。。
ほんとうに感謝している。
同級生のトコちゃんは、まず僕に言ってくれた。
「今まで気を遣いすぎだったんや。これからは気を遣うなよ!」
そして、毎晩消灯した後いろいろ話をした。
卒業したらどうするのか。
実家のお寺がどういう所なのか。
好きな女優は誰なのか。
トコちゃんの彼女はどんな子なのか。
不安なだけだった夜がリラックスできていく。
ただ、今まであれほど苦しんでいた不眠症がそう簡単に治るはずもなかったが、目をつぶっている時間が穏やかに流れた。
キョウトクさんが教えてくれた。
「目をつぶってるだけでも体力は回復するんやで」と。
トコちゃんも言ってくれた。
「ひょっとしたら眠っていないという夢をみているのかもよ。時計を見てるのも全部夢かも。 あ!それとも細切れの睡眠がたくさん来てるのかも。
僕もそう考えようと思った。
そしたら、いつの間にかあまり時計を見なくなっていった。
きっと断片的な睡眠が何度も来ている。
悠然と朝を迎えよう。
(つづく)
山地 弘純
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