古いお仏壇の魂を抜いて、新しいお仏壇に魂を遷した。
大きく立派な仏壇からは遠く長い歴史が染み込んでいる。
まだまだ使えるのに。。。
でももうどうにもならない。
都会の小さなアパートでは、これほどの立派なものを置く場所がないのだから。
小さくてシンプルな新しい仏壇に並べた新しい位牌。
まだ何も入っていない新しい容れ物に、長い歴史、その時代時代に生きた先祖の思いを詰め込んだ。
子孫を見守り、擁護するのは先祖の遥かなる願いだとお経の中でそう教わっている。「親は死んでも子供の事が心配なんです。」そんな言葉も聞いたことがある。
逆にそんな先祖から繋がる思いをずっと続けていくことは、今を生きる子孫の役目だと思う。
最後に祈願文を唱えた。
「子孫の身の上に、今一層の幸せあらんことを。」
お勤めが終わると、おばあちゃんがお茶を出してくれた。
部屋には、たくさんの段ボールが積み上げられている。
まとめられた荷物とともに、やがて迎えに来る引越しの車に乗せられて旅立っていくのだろう。
しばらく仏壇の飾り方など、事務的な話をしていた。
おばあちゃんは言った。
「拝んでもらって、なんだかホッとしました」
なんだかその瞬間に急に哀愁を感じて、
「さみしくなりますね」
僕は思わずそんな言葉をかけてしまった。
とたんにおばあちゃんは、声を詰まらせ、涙をこぼし始めた。
「ここで育ててもらって、ここで大きくしてもらって・・・」
言葉がとぎれる。
僕は後に続く言葉を探した。
「久斗山はいいところですもんね」
おばあちゃんはうんうんとうなずいている。
しばらくの沈黙の後、ぽつりとこうこぼした。
「ずっとここで暮したかった」
なんとも切ない思いがした。
ずっと暮らしてきた田舎を、80近くなってから離れていかなければならない。
自分のすべてがこの地と共にあったのだ。
水も空気も踏みしめる大地も。
これから旅立つ神戸という街で、新しい生活を始めていく。
家族はいれど周りに友達はいない。
耕すべき畑もない。
どんな暮らしになるのか、不安でたまらないだろう。
僕はすべてを飲み込んで言った。
「毎年、お盆前になったらお参りに行かせてもらいます。
おばあちゃん、長生きしてくださいよ」
涙の止まったおばあちゃんはうつむき加減で返した。
「あんまり長生きはしたくないな~・・・」
「何言ってるんですか。迷惑かけたらあかんとか思ってませんか?迷惑かけたらいいんですよ。家族なんですから」
その時顔がぱ~っと明るくなった。
「孫もそう言うてくれた。」
この新しい仏壇を二人のお孫さんが持ってきてくれて並べてくれたこと。
おばあちゃん、しっかりお仏壇のことを聞いておくんだよって言われたこと。
おばあちゃん、なにも気にせず来てくれたらいいと言ってくれたこと。
嬉しそうに話すおばあちゃんの姿に、少し安心した。
いいお孫さんがいてよかったね。
しかも二人揃ってお仏壇持ってきてくれて、そしてまた神戸のうちに運んでくれる。
おばあちゃんの一番大切な旦那さんのお位牌とともに。
お金よりも、思い出の写真よりも大切なもの。
大自然と家族の繋がりを形にした、かけがえのない宝石箱。
それがお仏壇なのかもしれない。
ふとそう思った。
「それじゃ、おばあちゃんこれで失礼します。
お元気で。。。」
僕はもう一回仏壇に手を合わせた。
「おばあちゃん、この久斗山という素晴らしい場所のこともすべてお仏壇に込めました。」
おばあちゃんは嬉しそうに笑って、頭を下げた。
「ありがとうございました」
見送るおばあちゃんの姿を振り返りながら思った。
おばあちゃん、お仏壇は素敵な世界です。
手を合わせて、家族も故郷も感じて下さい。
山地 弘純
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