結成して10年近く経つ御詠歌の中級組。
40~60才の女性が15人ほどで、毎月の練習や、年に二回の大会参加 など頑張ってきた。
各地区からばらばらに集ったため、最初は対人関係もぎこちなかったが、年を重ねるにつれてほぐれ、雰囲気もよくなり、いいチームワークになってきたな~と思っていた。
一番今油がのったとき。 善住寺を背負っていってもらう人材たちだ。
そんな期待を大きく寄せていた。
昨年の3月、やえさんが倒れるまでは。。。
突然の脳梗塞だった。
みんながびっくりした。
意識が戻らず、集中治療室に入ったままのやえさん。
会うことさえできやしない。
そんなやえさんのために、中級組みんなで何かできることをと、「千巻心経」を一心に唱えたものだ。
一人で千巻を唱えるのはとてつもない時間を労する。
そのため多くの人たちで千巻をわかち合った。
「やえさんがどうかよくなりますように!」
みんながそんな想いを込め、ただただ般若心経を一心不乱に唱えた。
一番前で拝んでいる僕の背中に、そんなみんなの気持ちがひしひしと伝わってきくる。
涙が出そうだった。
きっと届く。
必死に闘っているやえさんの意識にも。
そう自分に言い聞かせた。
それから二十日ほど後だった。
やえさんが目覚めたという報告を受けたのは。
あ~。。。
よかった。。。
もうこちらには戻ってこないかと思っていた。
予断は許さないだろうが、とりあえずみんなが胸をなでおろした。
ただ、まだぼ~っとしているということだった。
表情に笑顔がない。
ただ目を開けているというだけ。
体もほとんど動かない。
半身に麻痺も残るようだ。
それでも、お見舞いに行った御詠歌の仲間が、御詠歌の所作を真似しながら
「やえさん、またこれしにお寺に行こうで」
と言うと、手をぎゅっと握り返したらしい。
僕はその話を聞いて思った。
もう御詠歌は無理だろう。
でもそれが生きるための力になれば・・・
時は静かに流れた。
あれから一年半。
まさか病気以来初めて会うのが御詠歌の練習でだなんて。
僕は驚きを隠せなかった
「長い間ご心配をおかけしました。 また御詠歌に参加させてください。」
やえさんは、そう言って笑った。
少しだけ動きにぎこちなさは残るが、しっかりしているように見える。
よかった。 ほんとによかった。
信じられないほどの回復を見せたやえさん。
まさか再びこんな日を迎えることができるなんて思いもしなかった。
練習前、あらためてみんなに報告した。
「やえさんが戻ってきました。
あの時みんなが一生懸命唱えた千巻心経。
あのおかげで、きっと戻ってこれたんです。」
みんなも、やえさんも、うんうんとうなずいていた。
すすり泣く声も聞こえる。
全員が喜びで一杯になっていた。
これで、またチームの結束は一段と高まった気がする。
それにしてもよくぞここまで。
鈴をふるやえさんを見てジ~ンと感動しながら、御詠歌も御詠歌の仲間も、ほんとにありがたいなって思った。
みんなが悲壮な思いで唱えた千巻心経。
今となればかけがえのない財産だ。
忘れないよ。
いつまでも。
我々は、目に見えない力によって生かされている。
そして、想いも目に見えない糸によって、繋がっている。
信じていれば、きっと届く。
時を越え、空間を越えて。。。
いのちは、気付かない限り、別々の営みを続けるのかもしれない。
しかし、ある時人は不意に気付かされる。
いのちは一つに繋がっていることに。
それに気付いた時、大いなる力に包まれた自分を感じるのだろう。
あ~、確かに抱かれている。。。
山地 弘純
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