「父からの教えで、除草剤を使わないように言われてるので・・・」
子供たちと一緒に炎天下で草むしりをしてきたと、少し不満気味に僕に話して聞かせてくれた奥さん。
3年ほど前のことだった。
お母さんを亡くし、今まで携わってこなかった仏事を任され、いろいろと戸惑っているようだった。
今年の棚行の時、久しぶりにお会いした。
住職と分担して檀務を行うため、僕が毎年会えるというわけではないからだ。
いろいろと話をしたが、顔つきと口調に以前と違うものを感じた。
「今年も、子供たちと草むしりをしてきました」
当然のことのようにサラリと話し、そこに同情をアピールするようなものはない。
僕は、ちゃんと理解されたんだな~と思った。
それが大切なことであるということに。
周りのうちは、除草剤を使っている。
なんでうちは使っちゃいけないのか。
なんで父はこんな無駄なことをさせるのだろうか。
きっと抱えていたそんな思い。
それを打ち消す、何かが見つかったに違いない。
仏事を一生懸命こなそうとする心持ちからか、こんな質問を投げかけられた。
「うちへは、月に1、2度しか帰ってくることができません。
お花が枯れるのが嫌なので、高野槙を立てようと思います。
でも叔母たちから、色花を立てないとダメだ、って言われました。
高野槙はダメなのでしょうか?」
なるほど。。。
どちらの言い分ももっともだと思った。
どうしようと思って仏壇を眺めていたら、いつの間にか僕の口から自然に言葉がこぼれていた。
仏壇がその答えを雄弁に語っているような気がしたからだ。
お仏壇の一番上の段には、仏様がおられる。
中心に大日如来さま、その左にお不動様。右にお大師様。
その下の段にはお位牌が置かれている。
ずらっと並んだ先祖代々の命。
お仏壇の中は、きっとあの世を表現している。
あの世はもとの家族とめぐり合える世界。
お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、ひいおじいちゃん、ひいおばあちゃん・・・
この世から別れを告げたみんながいる。
そこは仏様の光に包まれた世界。
こんなお仏壇のような世界であってほしい。
ご先祖さまは、仏様に守られ、安らぎの中に暮らしてほしいと、我々は切に願っている。
僕は、亡くなった方々はきっとそんな世界におられるのだと信じている。
だからこそ仏壇に手を合わせる。
きっと思いは時空を越えて、あの人に届くはずだ。
あなたが手を合わせれば、仏様は光を発するだろう。
あなたがご飯を供え敬えば、あの世の食事も絶えることはないだろう。
あなたが水を供え敬えば、あの世の水も清らかに恵みを与えるだろう。
あなたがお花を供え敬えば、あの世も素晴らしい自然に囲まれ、色とりどりの花を咲かせるだろう。
そう、この世とあの世はつながっている。
全ては今の自分の心の映すがままに。
仏の世界は素晴らしい世界。
枯れた花々に囲まれたあの世なんてごめんだ。
「高野槙でもいいと思いますよ。
緑豊かなあの世もいいじゃないですか。
でも四季折々の花も咲かせてあげて下さい。
綺麗で香りのよい色花に囲まれて、心も癒されるはず。
きっとみなさん喜ぶと思いますよ」
それが見えない命を生かし、自分の命を生かすということ。
仏壇にお供えした花は、あの世を彩り、自分自身に彩りを与える。
なるほど、とうなずく奥さん。
僕は嬉しく思った。
来年にはどんなお花が飾られているのだろう。
きっとできるだけのことはしていただけるんじゃないかな~って思っている。
そんな意気込みを感じる素敵な表情だったから。
いのちの源は一つ。
とぎれることなくずっとつながっている。
自分だけで生きているんじゃない。
自分の番を生きているだけ。
そっとつぶやいてみる。
「今までいのちをつないできてくれてありがとう。」
過去のいのちを輝かせるほど、自分の道は照らされていく。
山地 弘純
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