いつごろからだろう思い始めていた。
家族みんなみんなで旅行に行きたいと。
僕が生まれたときから、みんなでまとまって出かけることがあっても、必ず誰かがお留守番。
お寺を空けてはならない。それは昔からの当然の約束事項だった。
電話での予約がほとんどになり、強く縛られていたこの約束の意味が薄れつつある最近においても、ただただじっと守り続けていた。いつなにがあっても対応できるようにと。急な電話や来客も少なからずある。
しかしそれでも、思いは強く強く膨らんでいった。
昨年の高野山での心の相談員養成講習。
応援ゲームというものをみんなでした際、今後の自分のテーマや夢などを紙に書き、発表することがあった。
みんなが素晴らしい夢を発表する中、僕は少し恥じらいながらこう発表した。
「家族みんなで旅行に行きたい。」
一人だけ勘違いしたかのような発表で、みんなからの夢の支持はいまいちだったが、応援の言葉はもらった。
「それは夢じゃない。その気になればできることだ。」
「お寺を空けるということは実は大きなテーマで、留守番をしてもらう時を年に一度作るなど、檀家さんにも理解してもらってはどうか。」
その通りだと思った。
それは夢ってほどのことじゃないのかもしれない。
家族全員がその気になれば明日にだってできることだ。
だけど、
だけど、
僕にとってはやっぱり夢だった。
なんだかんだ37年分の思いがこもっているのだから。
しかし言葉にした今、それは夢から現実へと変えられるような気がした。
いや、変えなければならない。なにしろ僕達には時間がないんだ。
おばあちゃんが生きてるうちに。
おばあちゃんが動けるうちに。
家族全員。
それは誰ひとり欠けてはならない。
93才を迎え、その日その日の体調次第のばあちゃんも。
お葬式などいつ檀務が入るかわからない父さんと母さんも。そして僕自身と妻も。
まだ2才と1才で遠出に不安のある娘たちも。
母さんは「う~ん、行けるかな~。」と本気には捉えてない様子。
父さんは「ま~お寺は留守にしたっていいんだ」と意外にも同意してくれるが、おばあちゃんを動かせるかなと懐疑的。
そのおばあちゃんはというと、「おばあちゃんはもうよう行かん。みんなで行ってくればいい」
がっかりしながら僕は言った。
「それじゃ意味ないんだって!」
おばあちゃんの体はまだまだ元気だと思う。しかし心がもう外には向いていないのは明らかで、家の中にこもりがちになっている。
どうすればいいかと考えているうちにふと浮かんできた過去のおばあちゃんの言葉。
「おばあちゃんはお前たちに伝えておかないといけないことがある」
これしかない!
子供の遊べるようなところも、みんながゆっくりできる温泉も却下だ。
僕はありったけの思いを込めて言った。
「おばあちゃん、四国のお墓参りに連れて行って!」
実は我が家はおばあちゃんが直系で、おじいちゃんが婿に入ってきている。
「山地」という名字とともに入寺し、善住寺再興に尽力したおばあちゃんのお父さん。
僕にとってのひぃおじいちゃん。
そんなご先祖さまの生まれた地。
「山地」という名字のルーツ。
それは昔おばあちゃんから口だけで伝えられたお墓の場所であり、父さんや母さんでさえ、あいまいにしか知らないことだった。
山地本家との親戚付き合いも、ほぼ途絶えている。
今年の5月。
予定の立ちづらいお寺のスケジュール表を眺めながら、その日に予定を入れる。
このタイミングしかない!
カレンダーの9月11、12日の二日にまたがった空欄に大きく書き込む。
「四国へ行こう!」
その後小さく追記する。
「※誰もが予定入れるべからず」
お葬式ができたら、それはもうあきらめるしかない。今回は縁がなかったのだと。
行事のつまった7月8月を終え、9月に入った。
「おばあちゃん、本気で行くよ!」
ずっとあいまいな答えしかくれないおばあちゃんは微妙な返事。
「もう宿も予約したんだからね!」
ほんとはまだ予約してないのだがそう言ってみる。
「おばあちゃんはほんとに行けるだろうか。」
自信なさそうな口ぶりは変わらない。
ま~無理もない。ほんとに行くと断言できるほどの体と心ではないだろうし。
当日になってみないとわからないかもしれない。
それでも母さんから聞かされる。
「おばあちゃんが四国の山地に電話してたよ。」
僕は強い気持ちで着々と準備を進めた。
荷物をまとめ、宿を確保し、お寺のお留守番を親戚にお願いし、もうあとは祈るのみ。
おばあちゃんの体調と気持ちが変わりませんように。
「やっぱりお前達だけで行ってこい」
その言葉だけが怖い。
そしてもう一つ。
お出かけするときに熱を出したりしやすい子供の特性が発揮されませんように。
どきどきしながら一日一日がゆっくりと過ぎて行った。
台風が直撃し、各所に爪痕を残していく。無事過ぎ去ってくれるのだろうか。
当日の天候も不安だった。
9月11日、月曜日。
お葬式の電話もない。 よし、行ける!
僕は前日の大阪での法事のための日帰り往復の疲れも感じることなく、元気いっぱいだった。
子供たちも機嫌よく早起きしてくれた。
おばあちゃんは?
洗面所で音がするとあわてて様子見に行く。
「おばあちゃん、どう?寝れた?」
「おばあちゃんな~ここ最近なんだか眠れないんだよ。」
僕は一気に気分が下がってしまった。やっぱりダメか~。
しかしおばあちゃんは顔をタオルで拭きながら言った。
「これはやっぱりご先祖さんが来いって言ってるのかもしれない。」
ぱ~っと一気にテンションがアップする。
やった~!
よし、ついにみんなで出かけれる!家族みんなで四国行きだ!
目指すは香川県屋島。
ただ、お墓参りのために。
台風一過。空も祝福してくれるかのようだ。
前日までの不安定さから一転、太陽がさんさんと輝いている。
まさに、僕たちは導かれていると感じた。
山地 弘純
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